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2020.01.10

【フィリピン】フィリピン駐在員給与に関する諸論点

今回は、お問合せ頂くことの多いフィリピン駐在員の給与に関する論点についてお伝えします。

 

1.フィリピンでの課税所得の範囲

フィリピン駐在員の所得のうち、フィリピンで税金を納めるべき対象となるのは「フィリピン国内源泉所得」のみです。ただし、フィリピン国内源泉所得とは、フィリピンでの労働の対価として得られる所得のことを指すため、例えばフィリピンにいる駐在員に対して日本の親会社が日本国内の駐在員個人の銀行口座に給料を振り込んだ場合でも、フィリピンでの労働の対価として支払われているものである限りフィリピン国内源泉所得となるので留意が必要です。

また、フィリピンでの勤務期間や目的等により税務上、居住者・非居住者の判断をすることになりますが、一般に契約等でフィリピンでの勤務期間が1年以上であることが明らかな場合、その駐在員は、フィリピンの居住者・日本の非居住者であるとして取り扱われることになります。日本で働く日本人は、日本の居住者であるため、収入のすべて(全世界所得といいます)が、日本で税金を納めるべき対象となりますが、日本の非居住者である駐在員の場合は、日本国内源泉所得のみが対象となります(※)。日本国内源泉所得には、例えば日本での不動産収入等が挙げられます。

ちなみに、居住者・非居住者の判定と混同しがちなものとして、租税条約の規定があります。日本とフィリピンの間の租税条約で、直近12ヶ月のフィリピン滞在期間が183日を超えないこと等の条件を満たした場合、フィリピンでの税金は免除されるというルールがあり、これをもって183日以上か未満かで居住者・非居住者の判断を行うと勘違いされるケースがありますが、居住者・非居住者の判定は、日数によってのみ決まるものではありません。

 

※こちらは従業員給与についての議論であり、役員報酬等については別の論点がありますのでご注意ください。

 

2.フィリピン駐在員の給与負担

フィリピンに駐在員を派遣している会社を悩ませる問題のひとつに、駐在員の給料をどこで負担すべきなのか、というものがあります。原則的には、駐在員の給与はフィリピン現地法人が全額負担すべきということになりますが、この場合、往々にして現地のフィリピン人社員との給与格差が大きくなってしまい、フィリピン人社員との関係が悪化する可能性が出てきます。また、日本の親会社からの給与がゼロになると、日本での社会保険の継続ができなくなるというデメリットもあります。

このため、駐在員の給料全額をフィリピン現地法人で負担するのではなく、部分的に日本の親会社が負担するというケースが多くみられますが、日本の親会社が負担する額は、日本の税務調査で寄付金であるとみなされてしまうリスクがある点に注意が必要です。日本の税務調査で調査官が、「現地法人のために働いた給料は現地法人が負担すべきものなので、日本の親会社が負担した額は給料としては認めません」という主張により、日本の親会社へ追加の税金を課してくることがあります。この点については、日本の親会社の負担額が「給与較差の補てん」であると認められれば寄付金とみなされることはありませんが、どこまでの金額が「給与較差の補てん」となるのか明確に決まっている訳ではありませんので、フィリピン現地の給与水準や同業他社の給与水準などをあらかじめ確認した上で、日本の親会社が負担する額を決めることがポイントになります。

 

3.フィリピン駐在員に関するその他の税金

駐在員を海外に赴任させる場合、駐在員の給与に加え、駐在員の住居費用、現地での車代や運転手代、海外出張費、子どもの教育費等を会社側で負担することがあります。駐在員に対してこのような給与以外の経済的利益が与えられた場合、フィリピンでは付加給付税(フリンジベネフィットタックス)という税金が課せられます。付加給付税は会社に対する税金であり、駐在員の給与に課される個人所得税とは異なります。

上記のような経済的利益を会社が負担する形をとるのか、それとも、経済的利益分を給与に上乗せして駐在員へ支払う形をとるのかによって、付加給付税と個人所得税のどちらが課されるのか変わってくることになります。付加給付税と個人所得税のどちらが会社にとって税金負担が少なくなるのかは、ケース・バイ・ケースですが、駐在員の給与決定にあたっては、どのような税金が課せられるのかを把握しておくことが重要です。

 

4.フィリピン駐在員の社会保険

フィリピンにも社会保険の制度があり、フィリピン現地法人から給料をもらっている駐在員に対しても社会保険料を納付することが求められています。このため、日本の親会社とフィリピン現地法人の両方から給料をもらっている駐在員は、これまで日本とフィリピンの両方で社会保険料を支払い、二重負担となっているという問題がありました。

この問題を解消することを目的として2018年8月1日に日本・フィリピン間で社会保障協定というものが発効されました。これにより、駐在員の派遣期間が5年以下の場合、フィリピンの社会保険のうち年金保険に相当するSSS(Social Security System)の支払免除を受けることが可能となりました。この社会保障協定の適用を受けるためには所定の手続きが必要となりますが、二重負担の解消に加え、フィリピンで年金保険料を支払った場合でも、日本とフィリピンの年金加入期間の通算が可能となり、フィリピンで年金を受給できる余地が広がりますので、社会保障協定の適用を検討してみるとよいのでないでしょうか。

なお一般企業については、SSSの他に健康保険にあたるPhilHealth、持家促進相互基金HDMF(Home Development Mutual Fund)への加入および毎月の掛金支払が義務づけられていますが、駐在員のHDMFに対する掛金免除を規定するCircular No.421(2019年1月16日付け)が発行されたため、社会保障協定の適用を行った場合、駐在員が負担すべき掛金は、PhilHealthのみということになります。

 

本稿の内容は2019年12月31日時点で公表されている情報に基づいています。

ご不明な点やご質問等がございましたら、ASAHI NETWORKS PHILS. INC.までお気軽にお問い合わせください。

 

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本ブログは、朝日ネットワークスフィリピン株式会社(ASAHI NETWORKS PHILS. INC.)の原稿提供により掲載しております。

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