2015.08.25
移転価格リスクと向き合う⑨ホンダ、移転価格裁判で勝訴確定
2015年5月28日、ホンダがブラジル子会社との取引で利益を海外に移したとする追徴課税を不服として、国に取消を求めた訴訟で、東京高裁で控訴を棄却された国側が上告せず、ホンダ側の勝訴が動かぬものとなりました。ホンダ側の請求は全面的に認められ、約75億円の課税処分を取消すという一、二審の判決が確定したのです(2015年6月13日付の日本経済新聞電子版)。
(タイ王国の北東に位置するラオスの首都ヴィエンチャンのコンビニ)
本件は、ホンダが、ブラジルのマナウスフリーゾーン(自由貿易地域。輸入税等が減免され、“マナウス税恩典利益”が享受できる)で自動二輪車の製造・販売を行う間接子会社との間で行った部品の販売取引の対価について、国側が算定した独立企業間価格が違法か否かを巡り争われたものです。
争点は、国側が選定した比較対象法人が適当か否か。二審・東京高裁は判決理由で現地間接子会社が受けていた税の優遇措置は同子会社の利益率に重要な影響を及ぼすと指摘し、一審の判断と同様、同国内で税優遇を受けていない同種企業と比較して課税対象の利益を計算した国側の手法を誤りだと結論付けました。
ここで注目すべきは、本件は東京国税局が2004年6月に行った1997年から2002年の6年間の収益に関する追徴課税に係る案件であるにもかかわらず、下表のように2004年8月にホンダが当局に異議申立てを行ってから、国税不服審判所への審査請求、東京地裁、東京高裁での裁判で勝訴、そして、国側が上告を断念しそれが確定するまで、実に10年以上の年月が経過しているということです。
【東京国税局からホンダへの課税をめぐる経緯】(2015年5月14日付日本経済新聞朝刊)
2004年6月 東京国税局が移転価格税制で追徴課税
8月 ホンダが東京国税局に異議申立て
2007年7月 国税局、一部を除き申立てを棄却
8月 ホンダが国税不服審判所に審査請求
2010年9月 審判所が請求を棄却
2011年3月 ホンダが課税処分取り消し求め東京地裁に提訴
2014年8月 東京地裁がホンダ側勝訴の判決
2015年5月 東京高裁が国側の控訴棄却の判決
国側が上告を断念し、ホンダの勝訴が確定
ホンダは、日本とブラジルでの二重課税を解消するために、両国の税務当局に相互協議を申立てました。しかし、協議は決裂し、ブラジルからの税金の還付はなされなかったため裁判で勝訴するほか、二重課税を回避する手段はありませんでした。
しかし、移転価格訴訟を行うには、弁護士費用だけでなく、会計士費用、エコノミスト費用など税務専門家や経済分析などの外部の専門家に支払う費用が発生します。また、訴訟は、通常、長期にわたり、対応に追われる企業内部の人件コストは莫大な金額にのぼります。
訴訟、相互協議の申立てのような移転価格案件に係る事後的救済に頼れないのであれば、早急に事前の対策を行うことが肝要です。それには、日本だけでなく進出国における移転価格税制や税務執行状況に十分精通して、海外関係会社取引における移転価格の妥当性を立証し、それを文書化しておかなければなりません。
“税務当局が算定した取引価格”で海外関係会社取引をせざるを得ないといった状況は避けて通りたいものです。税に支配されたビジネスをしないためにも、税金リスク対策を後回しにせず、重要な経営課題ととらえる必要があるでしょう。
以上
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