2017.11.21
移転価格税制の基礎 (3) ~ 移転価格税制の基本的しくみ
平成28年度税制改正では、OECD(経済協力開発機構)の「BEPSプロジェクト」の勧告を踏まえ、移転価格文書化制度が再整備されました。貴社が海外の関連企業(国外関連者)と取引を行う場合には、本年4月1日以後に開始する事業年度分の税務申告について、この新しい制度が適用になりますので、アクションが必要です。今回は、そもそも移転価格税制の基本的しくみはどうなっているのか、ご説明いたします。
- <移転価格税制とは>
移転価格税制は、国外関連者との間の取引を通じた所得の不公正な海外移転を防止するため設けられた制度です。国内の企業が国外関連者との取引(国外関連取引)を行った結果、独立した企業間で通常設定される取引価格(独立企業間価格)で行ったときと比べて利益が減少する場合に、その取引を独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度をいいます。
利益が減少する場合の例としては、日本の企業が海外子会社に販売する製品を、関連のない独立した企業への販売価格よりも低価格で販売する場合があげられます。
- <適用対象者と国外関連者>
移転価格税制の適用の対象となるのは、国内の企業(法人)のみで、個人には適用されません。また国外関連者とは、外国企業のうち、その企業と「特殊の関係」を有するものをいいます。例えば、発行済み株式等の50%以上を介する親子関係や兄弟姉妹関係他、実質支配関係にある場合も含まれます。
- <適用対象となる取引は?>
適用対象となる取引としては、国内企業が国外関連者との間で行う、①資産の販売、②資産の購入、③役務の提供、④その他の取引があげられます。また第三者を介在させていても、実質的に国外関連者と行われる金銭の貸付、保険、信用の保証といった役務提供取引等はこれに含まれるので注意が必要です。
なお対価性の無い取引は移転価格税制の適用対象となりませんが、その取引が寄付金に該当する場合は、「国外関連者に対する寄付金」として扱われ、その金額の「全額」が損金(税務上の費用)となりませんので、要注意です。
- <独立企業間価格とは?>
独立企業間価格とは、資産の販売・購入、役務提供といった国外関連取引の内容や、国外関連取引を行う者が果たす機能、その他の事情を考慮して、最も適切な方法により算定した価格をいいます。
具体的には、独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)のほか、複数の価格算定方法があります。
- <移転価格文書の作成義務>
企業が、国外関連者との間で国外関連取引を行った場合には、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(これを「ローカルファイル」といいます)を確定申告書の提出期限までに作成または取得し、保存しなければなりません。これは、「同時文書化義務」と呼ばれています。
なお、前期の取引金額が50億円未満であり、かつ、無形資産取引金額が3億円未満である場合には、この同時文書化義務は免除されています。ただし、同時に作成・保存する義務はなくても、税務調査で税務調査官が提出を求めた日から60日以内の指定日までにローカルファイル提出しなかった場合には、調査官は推定課税(類似の取引を行う第三者から入手した情報等に基づき行う課税)を行うことができます。このような推定課税を避けるためには、移転価格文書を作成・保存しておく必要があるのです。
平成28年度税制改正では、新たにマスターファイルと国別報告書の作成・提供が一定の売上げ規模の多国籍企業グループに義務付けられました。これは別の機会にご説明いたします。
以上
【初掲載】
ウェブサイト 「イノベーションズアイ」 コラム 「中堅企業にも求められる移転価格税制対応」シリーズ」第9回 2017年4月21日
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